光触媒協奏学|分子触媒・反応場・反応解析法の革新と協奏:CO2光多電子還元の学理構築

光触媒協奏学|分子触媒・反応場・反応解析法の革新と協奏:CO2光多電子還元の学理構築

光触媒協奏学|分子触媒・反応場・反応解析法の革新と協奏:CO2光多電子還元の学理構築

本領域について

領域代表メッセージ

中田 明伸
京都大学

 カーボンニュートラル実現に向けた様々な科学技術の中でも革新的なブレークスルーが熱望される技術として、「太陽光エネルギー」と「光触媒」を用いた「二酸化炭素(CO2)」の還元・変換反応が期待されています。Lehnらによるレニウム錯体のCO2還元光触媒作用の発見から40年、極めて高い光反応効率(量子収率)で選択的にCO2を還元する光触媒の開発や、半導体の光電効果を利用して水を酸化しながらCO2を還元する「人工光合成」反応の実証に至るまで、CO2を「炭素資源」とみなした光触媒による変換は発展を遂げてきました。しかしながら、このような光触媒技術を実用化に結びつけるにはいくつもの大きな障壁が立ちはだかっています。

 一つ目の重要課題として、今まで見出されてきた光触媒系の大半において、CO2を光還元するために廃棄物となる物質(犠牲試薬)を添加する必要性が挙げられます。犠牲試薬の使用は、物質資源・エネルギー資源の過剰投入(無駄遣い)を意味しており、このようなCO2還元系は実用化に結びつきません。光合成のように、水と太陽光のみでCO2を効率よく変換する夢のような光触媒システムの開発が望まれています。

 二つ目の重要課題は、CO2の光還元生成物が極めて限定されるという事実です。従来の光触媒の大半は、CO2の二電子還元生成物である一酸化炭素かギ酸しか生成しません。一方で、化成品原料として必要とされている単純な炭素化合物は一酸化炭素やギ酸以外にも数多く存在します。CO2を原料として、これらの多様な炭素化合物を得るためには、CO2に多数の電子を注入し、化学結合形成/組み替えを含む多段階の反応を進行しなくてはなりません。

 光触媒反応は、「光吸収」「電荷移動」「化学反応」をはじめとする多数の機能の集積により初めて進行します。天然の光合成は、極めて複雑かつ美しい機能集積によってCO2の光変換を実現しています。上述したような、我々が目指すべき、社会に求められるCO2光変換反応を達成するためには、光のエネルギーにより「安定な水とCO2を同時に活性化する」および「CO2に多電子を注入し、多段階の化学反応を進行する」必要があり、いずれも高いレベルでの高次な機能集積が不可欠です。

 偉大な先人たちの功績によって、各要素機能に関して、それぞれの科学分野で深化してきました。しかしながら、各要素に関する「単独研究」だけでは、複雑な機能集積を要する人工光合成の実現が極めて困難であることも示されています。我々若手研究者は、このバトンを受け継ぎ、この挑戦的なターゲットに向かって「協奏的研究」を進めなくてはなりません。

 本領域「光触媒協奏学」は、志を共にする9名の若手研究者から協奏的研究をスタートさせました。科研費助成期間の3年間にとどまらず、このメンバーを核として協奏の輪を広げ、投じた一石から大きなうねりにつなげることが領域代表として重要な使命であると考えています。一方で、複雑な光化学反応の理解、設計、制御、それを実現する物質創製は、そもそも基礎科学の観点から非常に興味深いものがあります。研究者として光触媒科学を存分に楽しみ、頼れる仲間と共に研究に邁進して参ります。

研究概要

 光エネルギーによってCO2を自在に還元変換するためには、CO2及びその還元中間体に電子を「蓄える」触媒、光エネルギーにより触媒を「操る」反応場、過渡的な光励起状態から始まる複雑で多段階な光反応過程を「識る」分析手法の開発、及びその「協奏」が不可欠です。本領域では、「分子触媒開発」「光反応場設計」「機構解析」の3つの柱を設置しました。A01分子触媒開発班では、触媒のバックボーンや活性種を共有しつつ、異なる反応への展開を目指します。B01光反応場設計班は、光電荷移動と触媒周辺環境を固体材料・生物無機・溶媒科学の融合により制御し、光エネルギーによって分子触媒が真価を発揮できる反応場構築を担います。C01機構解析班は、光反応場中における触媒の振る舞いを明らかにする革新的な分析手法開発により、多段階の光反応プロセスを開拓します。それぞれの柱を深化させるのみならず、これらを「協奏」させるための領域活動を推進します。

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